大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1207号 判決

控訴人はまず右和解は要素の錯誤により無効であると主張する。思うに和解するにいたつた争いの目的対象に錯誤があつても、民法第六九六条により右和解は無効とならないけれども、争いの対象とならなかつた事項で、しかも和解の要素と考えられる点について錯誤がある場合には、右和解は民法第九五条によつて無効となるものと解するのが相当である。本件につきこれをみるに、被控訴会社が右和解第三項において、別紙第一目録記載の土地のうち別紙図面表示赤斜線の部分を神原政房が別紙第三目録記載の建物を所有して占有していること並びに右神原が被控訴会社に対し、使用貸借による権利以外には何らの土地占有権限を有しないことを確認していることは控訴人主張のとおりであり、この点が当事者間において争いの対象となつていなかつたことは、弁論の全趣旨により明らかである。そこで右神原が被控訴会社に対し、右土地につき使用貸借による権利以外には何らの土地占有権原を有しないことが、本件和解の要素となつていたかどうかについて検討する。なるほど本件和解条項によると、被控訴会社は同条項第一、第二項記載の義務とともに、右神原がすみやかに別紙第三目録記載の建物を収去して、別紙図面表示赤斜線部分の土地を控訴人に明渡すよう協力すべき義務を負担していること、そして被控訴人の右義務は、右神原が使用貸借による権利以外には、何らの土地占有権原のないことを前提としていることが認められるけれども、しかしこの点が本件和解にとつて重要な事項であるとするならば、右神原を利害関係人として和解に参加させ、同人に対しても本件和解の効力を及ぼす措置をとつてしかるべきであるにかかわらず、その措置がとられておらず、従つて右当事者で前記の事項を確認してもそれはそれだけの効力しかないものであることは当事者双方ともに了解していたものと推認されること、右神原が占有する土地は全体の土地の約五分の一に相当すること、そして控訴人が本件和解により被控訴会社に支払う金員は金千八百万円であるところ、内金六百万円を昭和四一年五月一二日限り支払つた後、内金六百万円は被控訴会社が第二目録記載の建物から居住者全員を退去させたときに支払い、内金五百万円は被控訴会社が右建物を収去してその敷地を明渡し、右建物につき滅失登記手続をした上、その旨の記載ある登記簿謄本を控訴人に交付し、さらに被控訴組合が別紙第一目録記載の土地につき根抵当権設定登記の抹消登記手続をし、その旨の記載ある登記簿謄本を控訴人に交付したとき支払うことになつているのに比し、前記神原が建物収去土地明渡を履行したときには、僅かに金百万円が支払われることになつていることを考え合わせると、前記神原が被控訴会社に対し右土地につき使用貸借による権利以外には何らの土地占有権限を有しないことは、本件和解の要素となつていたものとまでは考えられない。従つて控訴人の錯誤の主張は理由がない。

(浅沼 岡本 田畑)

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